七尾与史による「東京プレデターズ チャンネル登録お願いします!」は、現代の動画配信文化を背景にしたミステリー作品です。
動画配信者という身近な存在をテーマにしつつ、サスペンス要素を加えることで、リアルとフィクションの境界が曖昧になるような感覚を味わえます。
今回は本作の考察を深めるため、3つのポイントに分けて解説していきます。
考察① YouTube文化のリアルな描写
本作の大きな特徴の一つは、YouTube文化がリアルに描かれていることです。
動画配信に関する細かな設定が反映されており、実際にYouTubeに携わったことのある人なら「あるある」と共感できる部分が多くあります。
例えば、YouTubeの収益化条件や視聴維持率の重要性など、動画配信の裏側がしっかりと描かれています。
これは著者・七尾与史自身がYouTubeチャンネルを運営していることも関係しているのでしょう。
YouTube運営の難しさを物語の中で自然に伝えつつ、ミステリーの展開に組み込んでいる点が秀逸です。
本作を通じて、華やかに見える動画配信者の世界の裏側を知ることができます。
視聴者にとっては「動画を観る側」から「動画を作る側」へと視点が移るような感覚を味わえる作品と言えるでしょう。
考察② フィクションと現実の曖昧さ
本作では、フィクションでありながら現実のYouTube文化と強くリンクした描写が多く登場します。
例えば、「号チューブ」という架空の動画配信サイトや、現実の有名YouTuberを連想させるグループの存在など、実在するものを彷彿とさせる設定が随所に見られます。
特に「血だまりボンボン」というYouTuberグループの描写は、実際の人気YouTuberのスタイルに似ていると感じる読者も多いでしょう。
こうしたリアルな要素を取り入れることで、物語に没入しやすくなり、読者は「これはフィクションなのか、それとも現実に起こりうる話なのか?」と考えさせられます。
この曖昧な境界線が、本作の独特な魅力の一つです。
リアルに寄せすぎると単なる風刺になってしまいますが、本作はあくまでミステリーとして成り立たせつつ、リアルさをうまく活用しています。
考察③ 「底辺YouTuber」の現実
本作の登場人物たちは、いわゆる「底辺YouTuber」として描かれています。
動画配信の世界では、一握りの成功者が脚光を浴びる一方で、大多数の配信者が厳しい現実に直面しています。
本作では、その「這い上がるための苦闘」が生々しく描かれている点が特徴的です。
例えば、収益化の条件をクリアするまでの試行錯誤や、炎上商法に手を出すか否かの葛藤など、動画配信者が直面するリアルな問題が描かれています。
こうした要素は、単なるエンタメとして楽しむだけでなく、「動画配信という仕事とは何か?」を考えるきっかけにもなるでしょう。
また、YouTubeの視聴者層が何を求めているのか、そして動画配信者がどのように戦略を立てているのかを知ることで、普段何気なく観ている動画の見方も変わるかもしれません。
まとめ
「東京プレデターズ チャンネル登録お願いします!」は、動画配信文化をリアルに描きながら、ミステリー要素を加えたユニークな作品です。
YouTubeの裏側を知ることができる点、フィクションと現実の境界を曖昧にする工夫、そして底辺YouTuberのリアルな姿を描いた点が本作の見どころです。
単なるミステリーとしてだけでなく、現代のネット社会の在り方を考える作品としても楽しめるでしょう。
YouTubeが身近な存在になった今だからこそ、多くの人に読んでほしい一冊です。